はじめに (対象読者・この記事でわかること)

この記事は、Linux パソコンで C++ を書き始めたい・もっと快適に書きたいと考えている方を対象にしています。
Windows や macOS とは違い、Linux には「何を使えばいいか分からない」という声をよく耳にします。本記事では、無料・有料問わず「本当に使える」エディタ/IDE を厳選して紹介します。
各ツールの特徴、インストール手順、デバッグのしやすさ、補完精度、ビルドシステムとの連携まで、実務で使っている現場目線で解説します。読み終えると、あなたの作業スタイルに最適な 1 本が確実に見つかります。

前提知識

  • C++ の基礎文法(変数、関数、クラス)を書いたことがある
  • Linux で apt / dnf / pacman などのパッケージマネージャを使った経験
  • CMake や Make などのビルドツールを「聞いたことがある」程度

C++ 開発で Linux を選ぶ理由

Linux は GCC/Clang が最速で試せ、valgrind、gdb、perf、clang-tidy などのツールが標準で入手可能です。
CI/CD 環境も Alpine や Ubuntu Docker イメージが主流であり、「開発環境=本番環境」を実現しやすいのが最大のメリットです。
ただし、Visual Studio のような「オールインワン」環境が存在しないため、エディタ選びがパフォーマンスに直結します。

10 種のエディタ/IDE を徹底比較

以下、実際に Hello World から数千行規模のプロジェクトまで触ってみた感想を交えて紹介します。

1. CLion(ジェットブレインズ)

  • 特徴:リファクタリング、静的解析、UnitTest、プロファイリングが GUI 一発
  • 補完:Clangd ベースで高精度。テンプレート補完も高速
  • デバッグ:gdb/lldb ラッピアーでブレークポイント条件分岐も簡単
  • 欠点:有料(個人ライセンス 年額 13,900 円〜)、メモリ 1 GB 以上食う
  • インストール: bash sudo snap install clion --classic
  • おすすめスコア:★★★★★(商用開発なら最速)

2. Visual Studio Code(マイクロソフト)

  • 特徴:軽量+拡張で何でもできる。Remote-WSL 対応で Windows 連携も楽
  • 必須拡張:
  • ms-vscode.cpptools(IntelliSense)
  • ms-vscode.cmake-tools(CMake 統合)
  • vadimcn.vscode-lldb(デバッグ)
  • 補完:clangd モードに切り替えると CLion に迫る精度に
  • 欠点:設定項目が多く、最初の 1 時間は迷う
  • インストール: bash sudo apt install code
  • おすすめスコア:★★★★☆(無料で最強)

3. Neovim(0.9 以降)

  • 特徴:tmux と組めば SSH 先でも全機能そのまま
  • 構成例:
  • nvim-treesitter(構文ハイライト)
  • nvim-lspconfig + clangd(補完)
  • mason.nvim + codelldb(デバッグ)
  • 起動時間:0.2 秒台
  • 欠点:init.lua 記述に 1 日以上かかる覚悟が必要
  • インストール: bash sudo apt install neovim
  • おすすめスコア:★★★★☆(キーボード唯我独尊派へ)

4. Vim(8.2 以降)

  • 特徴:どのサーバにも入ってる「最後の頼み」
  • 補完:coc-clangd で補完、定義ジャンプ可能
  • 欠点:Neovim と比べプラグイン速度劣る
  • おすすめスコア:★★★☆☆(レガシー環境で頑張るとき)

5. Emacs(29 以降)

  • 特徴:Lisp で自分好みにカスタマイズできる究極の拡張性
  • 補完:lsp-mode + clangd か eglot
  • 欠点:キーバインドの習得壁が高い
  • おすすめスコア:★★★☆☆(Lisp 好きなら天国)

6. Qt Creator

  • 特徴:Qt プロジェクトに最適だが、普通の CMake でも使える
  • UI:デザイナ+シグナルスロットエディタで GUI 開発が爆速
  • 欠点:大型プロジェクトでインデックスが重くなる
  • インストール: bash sudo apt install qtcreator
  • おすすめスコア:★★★☆☆(Qt アプリ開発時のみ ★5)

7. KDevelop

  • 特徴:KDE 製品だが Ubuntu でも動作軽快
  • 補完:Clang ベースでテンプレート補完も優秀
  • 欠点:日本語情報が少ない
  • おすすめスコア:★★★☆☆(KDE ユーザなら隠れ玉的)

8. Sublime Text

  • 特徴:起動 0.1 秒、大量ファイルも開ける
  • 補完:LSP パッケージ+clangd で補完
  • 欠点:無料版は保存回数で常にウインドウが出る
  • おすすめスコア:★★☆☆☆(有料にするなら VS Code の方が機能多)

9. Atom(サポート終了)

  • 特徴:GitHub 製、拡張は豊富
  • 欠点:2022 年末で正式サポート終了。セキュリティリスク大
  • おすすめスコア:☆☆☆☆☆(もう使わない)

10. Code::Blocks

  • 特徴:Windows 時代の名残で GUI 簡単
  • 欠点:Linux 版メンテナンスが細々、clangd 未対応
  • おすすめスコア:★☆☆☆☆(授業で指定されない限り非推奨)

ハマりどころ&対策

1. ヘッダー補完が効かない

原因:compile_commands.json が生成されていない
解決:CMake 生成時に

Bash
cmake -B build -G Ninja -DCMAKE_EXPORT_COMPILE_COMMANDS=ON

を忘れずに実行し、clangd が参照できるようプロジェクトルートにシンボリックリンクを張る

Bash
ln -s build/compile_commands.json .

2. デバッグでブレークポイントが無視される

原因:gcc に -g -O0 が渡っていない
解決:CMakeLists.txt に

Cmake
set(CMAKE_BUILD_TYPE Debug)

を明記し、ビルドフォルダを一旦削除して再生成

3. ウイルス対策ソフトが LSP を落とす

一部の商用セキュリティソフト(Linux 版)が 20,000 ファイル以上のリアルタイム検査で clangd を終了させる
解決:プロジェクトフォルダをアンチウィルスの除外リストに追加

まとめ

本記事では、Linux で C++ を書くための主要なエディタ/IDE を 10 種類紹介し、それぞれの得意/不得意を整理しました。

  • 商用開発・リファクタリング重視 → CLion
  • 無料で高速・拡張自由 → VS Code または Neovim
  • Qt GUI アプリ → Qt Creator
  • 超低スペックサーバ → Vim + clangd

どの選択肢でも「補完+デバッグ+ビルド」が最小限揃っていれば、Linux でも十分快適に C++ 開発ができます。
次回は「CMakePresets.json と clang-tidy で CI 品質を 10 倍にする方法」をお届けします。お楽しみに!

参考資料

  • JetBrains CLion ドキュメント(https://www.jetbrains.com/help/clion/)
  • VS Code C++ 拡張公式(https://code.visualstudio.com/docs/languages/cpp)
  • Neovim Lua 設定サンプル(https://github.com/LunarVim/Neovim-from-scratch)
  • clangd 仕様(https://clangd.llvm.org/)
  • CMake チュートリアル(https://cmake.org/documentation/)