はじめに (対象読者・この記事でわかること)

本記事は、サーバー管理者やDevOpsエンジニア、あるいはミドルウェアやバックエンドサービスを運用・開発しているエンジニアを対象としています。サービスの更新時に「再起動が必要」なツールを、稼働中のまま安全に更新できる手法の正式名称や、実際に利用できる技術・ツールを体系的に把握したい方に最適です。この記事を読むことで、以下のことが理解・実践できるようになります。

  • 再起動不要で更新を行う手法の一般的な呼称(例:Hot Reload、Live Patch など)
  • 代表的な実装例(Linux カーネルの kpatch、Java の HotSwap、Kubernetes の Rolling Update 等)
  • それぞれの手法が持つメリット・デメリット、導入時の注意点

バックエンドの可用性向上や、ユーザーへの影響を最小限に抑えるための知見を得られるでしょう。

前提知識

この記事を読み進める上で、以下の知識があるとスムーズです。
- 基本的な Linux システム管理(サービスの起動・停止、systemd の概念)
- コンテナ技術(Docker、Kubernetes)の基礎概念
- プログラミング言語(Java、Go、Node.js 等)の実行環境とデプロイ手法

再起動不要で更新する手法の概要と呼称

ソフトウェアやサービスの更新は、従来は「停止 → アップデート → 再起動」のサイクルが一般的でした。しかし、サービスレベルでの可用性が求められる現代のインフラでは、ダウンタイムを極力減らすことが重要です。そこで登場したのが 「ホットアップデート(Hot Update)」 系列の手法です。代表的な呼称は次の通りです。

呼称 意味・特徴 主な利用シーン
Hot Reload / Hot Swap 実行中のプロセスに対し、コードや設定を差し替えて即座に反映させる。 開発環境(Webpack Dev Server)、Web アプリのコード変更反映
Live Patch / Hot Patch カーネルやライブラリのバイナリを実行中に置き換える。 高可用性が必須のサーバー(Linux kpatch、Oracle Ksplice)
Graceful Restart / Rolling Update 新しいプロセスを起動し、古いプロセスを徐々に停止させる。 コンテナオーケストレーション(Kubernetes の Deployment)
Zero‑Downtime Deployment 完全にダウンタイムなしで新バージョンを展開する総称。 大規模 Web サービス、マイクロサービスアーキテクチャ

これらは概念的に重なる部分がありますが、「再起動が不要」 という共通点を持ちます。実装の方法は、対象となるツールやプラットフォームに依存しますが、基本は「状態を保持したままコードやバイナリを差し替える」ことです。

具体的な手順と実装例

以下では、代表的な3つのシナリオを取り上げ、実際に「再起動なしで更新」する手順を詳しく解説します。
- シナリオA:Linux カーネルの Live Patch(kpatch)
- シナリオB:Java アプリケーションの HotSwap(JRebel / DCEVM)
- シナリオC:Kubernetes 上の Rolling Update(Deployment)

シナリオA:Linux カーネルの Live Patch(kpatch)

ステップ1 kpatch のインストールと設定

Bash
# 必要なパッケージをインストール sudo yum install -y kpatch kpatch-dkms # kpatch モジュールをロード sudo modprobe kpatch # カーネルの現在バージョンを確認 uname -r

ステップ2 パッチモジュールの作成

  1. カーネルソースツリーを取得し、該当箇所を修正
  2. make -C /usr/src/kernels/$(uname -r) M=$(pwd) modules でビルド
  3. ビルドした .ko ファイルを /lib/modules/$(uname -r)/extra/ に配置

ステップ3 パッチの適用

Bash
# パッチをロード sudo kpatch load ./my_patch.ko # 適用状況を確認 sudo kpatch list

ハマった点やエラー解決

  • エラーmodprobe: ERROR: could not insert 'kpatch': Unknown symbol
    解決策:カーネルヘッダーと実行中カーネルのバージョンが一致しているか確認し、yum update 後に再ビルドする。

解決策まとめ

  • カーネルとモジュールのバージョン整合性を必ずチェック
  • kpatch 用の特別なコンフィグオプション(CONFIG_KPATCH)を有効にしてビルド

シナリオB:Java アプリケーションの HotSwap(JRebel / DCEVM)

ステップ1 DCEVM の導入

Bash
# OS に合わせた DCEVM のインストーラを取得 wget https://downloads.github.com/.../dcevm-8u312-installer.jar java -jar dcevm-8u312-installer.jar

ステップ2 IDE(IntelliJ IDEA)で HotSwap の有効化

  1. Run → Edit ConfigurationsVM options-XXaltjvm=dcevm を追加
  2. 「Build → Make Project」を実行した後、Ctrl+F9(HotSwap)で変更を即時適用

ステップ3 JRebel の利用(商用版)

Bash
# JRebel エージェントをダウンロード wget https://download.zeroturnaround.com/jrebel/jrebel.jar # アプリ起動時にエージェントを付与 java -javaagent:/path/to/jrebel.jar -jar myapp.jar

ハマった点やエラー解決

  • エラーUnsupported major.minor version
    解決策:JRE と DCEVM のバージョンが一致しているか確認し、JDK8 → JDK11 へ統一する。

解決策まとめ

  • DCEVM は JDK のパッチレベルに厳密に依存するため、アップデート時は必ず再インストール
  • JRebel は商用サブスクリプションが必要だが、IDE と連携すれば自動リロードが快適

シナリオC:Kubernetes 上の Rolling Update(Deployment)

ステップ1 Deployment マニフェストの作成

Yaml
apiVersion: apps/v1 kind: Deployment metadata: name: webapp spec: replicas: 3 selector: matchLabels: app: webapp strategy: type: RollingUpdate rollingUpdate: maxSurge: 1 # 更新時に一時的に追加する Pod の数 maxUnavailable: 0 # ダウンさせない Pod の数 template: metadata: labels: app: webapp spec: containers: - name: webapp image: myrepo/webapp:1.0 ports: - containerPort: 8080

ステップ2 イメージの更新とデプロイ

Bash
# 新しいイメージをビルドしてプッシュ docker build -t myrepo/webapp:1.1 . docker push myrepo/webapp:1.1 # Deployment のイメージタグを上書き kubectl set image deployment/webapp webapp=myrepo/webapp:1.1

ステップ3 ロールアウト状況の確認

Bash
kubectl rollout status deployment/webapp

ハマった点やエラー解決

  • エラーFailedCreatePodSandBox(ネットワークプラグインの不具合)
    解決策:CNI の設定を見直し、kube-proxy の再起動で解消。

  • エラーReadiness probe failed(新 Pod がすぐに Ready にならない)
    解決策initialDelaySecondsperiodSeconds を調整し、起動待ち時間を長めに設定。

解決策まとめ

  • maxSurgemaxUnavailable の組み合わせで、ダウンタイムゼロを実現できるか検証
  • ヘルスチェック(readiness / liveness)を適切に設定し、ロールアウト中にトラフィックが不健康な Pod に流れないようにする

まとめ

本記事では、再起動不要でツールやサービスを更新する手法の正式名称と実装例 を解説しました。

  • 呼称:Hot Reload / Live Patch / Graceful Restart など、目的に応じた名称が存在する。
  • 代表的な実装:Linux カーネルの kpatch、Java の DCEVM/JRebel、Kubernetes の Rolling Update。
  • ポイント:バージョン整合性の確保、ヘルスチェックの適切設定、デプロイ戦略のチューニングが成功の鍵。

これらを活用すれば、サービス停止時間を最小限に抑えつつ、セキュリティパッチや機能追加を迅速に展開できます。今後は、マイクロサービス間でのリアルタイム構成変更や Service Mesh を用いた更なるゼロダウンタイム戦略 についても取り上げていく予定です。

参考資料