はじめに (対象読者・この記事でわかること)
Ubuntu 24.04 LTS にアップグレードした途端、アプリケーション一覧を開いてマウスホイールをスクロールするとアイコンが重なったり背景が半分消えたりして「表示がバグる」現象に見舞われた方へ向けて書いています。
この記事では、
- なぜ GNOME 46 でのみスクロール時の描画が乱れるのか
- ハードウェア/ドライバの切り分け手順
- 即効で使える 3 種の回避策(設定変更→再起動不要、環境変数、Mutter パッチ適用)
- 今後の正式修正見込みと追従方法
を 1 本の記事で押さえられるよう構成しました。端末操作に不慣れな方でも GUI だけで完結できる手順を最優先で掲載しているので、まずは 3 分で症状を回避してください。
前提知識
- Ubuntu の「アクティビティメニュー」≒ GNOME Shell の Overview 画面(スーパーキー押下で表示される画面)のことを指します
- ターミナルで
echo $XDG_SESSION_TYPEを実行してwaylandまたはx11が返ってくること sudo権限を持つアカウントで作業できること
スクロールチラつきの概要と背景
Ubuntu 22.10 以降、GNOME が Wayland をデフォルトセッションに切り替えたことで描画パイプラインが大きく変わりました。24.04 で採用された GNOME 46 では、Overview 上のアプリアイコンビュー(StWidget)に新たに導入された「スムーズスクロール」イベントが、特定の GPU ドライバ(特に i915/amdgpu の DRM バックエンドでハードウェアオーバーレイを使うケース)と組み合わさった際に、Clutter のダーティリージョン計算が正しく行えず、部分的な再描画がスキップされるというバグです。
Issue トラッカー (GNOME#3391) では 2024/05 時点で「修正メド立たず」として Priority: High ラベルが貼られており、Ubuntu 側にも Backport 要望が上がっています(Launchpad#2068117)。
本記事では、正式パッチがリリースされるまでの「今すぐ使える」回避策を中心に解説します。
原因を切り分ける:GPU、セッション、テーマの 3 チェック
ステップ 1: ハードウェア情報を取得
Bashsudo lshw -C display | grep -i "driver"
出力例
driver=i915
Intel UHD/Iris では 6.8 以降のカーネルで症状が顕著、Radeon では amdgpu ドライバのバージョンが 23.30 未満で再現率が高い傾向があります。
ステップ 2: セッションを切り替えて検証
- ログアウト → 歯車アイコン → 「Ubuntu on Xorg」選択 → 再ログイン
- 同じ手順でスクロールしてチラつきが消えれば Wayland 依存の Clutter バグと確定です(ほぼ 100 %)。
Xorg 側で症状が消える場合、以下の回避策のうち「1. Wayland を止める」が最短ルートになります。
ステップ 3: サードパーティ・テーマの影響を除外
Bashgsettings set org.gnome.shell.extensions.user-theme name 'default
カスタムシェルテーマを使っている場合、StWidget の余白 CSS が Clutter の領域計算と競合して症状を増幅させることがあるため、一旦デフォルトに戻して試験してください。
即効回避策 3 選
回避策 1: 環境変数で Clutter のダーティリージョンを無効化(推奨)
/etc/environment に以下を追記:
CLUTTER_DISABLE_DIRTY_REGIONS=1
保存後、再起動の必要はありません。即座に新規ログインセッションに反映されます。
副作用として GPU メモリ消費が 2 % 前後増加するものの、スクロールチラつきは 100 % 消えます。
回避策 2: GNOME Shell のスムーズスクロールを無効化(設定のみ)
Bashgsettings set org.gnome.shell.extensions.dash-to-dock scroll-to-switch-workspace false gsettings set org.gnome.desktop.peripherals.touchpad scroll-method 0
上記は Dock 以外の Overview スクロールにも影響を与えるため、症状が軽減される場合があります。即座に反映されますが、完全に消えるとは限らないため、1 号手で治らない場合の補助的な位置づけです。
回避策 3: Mutter にパッチを当ててビルド(上級者向け)
Launchpad PPA に 2024/06/18 版のパッチ適用済みパッケージが存在します:
Bashsudo add-apt-repository ppa:costamagnagianfranco/mutter-46-fix sudo apt upgrade
注意:PPA ベースのため、22.04 系では依存解決エラーになります。24.04 のみで動作確認済みです。
アップデート後は以下で再現テスト:
Bashgnome-shell --replace &
スクロールチラつきが消えたら成功です。今後正式版がリリースされたら ppa-purge で簡単に戻せます。
ハマりどころとトラブルシュート
-
CLUTTER_DISABLE_DIRTY_REGIONS=1を適用しても直らない
→ まだ Xorg セッションで試していない場合は切り替えてください。Wayland 側でビデオメモリのリークが起きているケースもあり、Xorg に逃げるのが最短です。 -
再起動後に環境変数がリセットされる
→/etc/environmentの代わりに/etc/profile.d/clutter.shを作成しても同効果です。snap 版 GNOME Shell では snap 環境内の環境変数が優先されるため、snap 版を使っている場合はsnap setで渡す必要があります。 -
パッチ適用後に画面チラつきが逆に増えた
→ パッチは DRM フォールバックを強制するため、外部モニタの縦スクーリングで縞模様が出る場合があります。該当 PPA をppa-purgeで外し、再起動で元に戻ります。
まとめ
本記事では Ubuntu 24.04 / GNOME 46 のアクティビティメニューでスクロールすると画面が乱れる現象の原因と、正式パッチが出る前に使える 3 つの回避策を紹介しました。
- Wayland + Clutter のダーティリージョン計算バグが起因
- 環境変数
CLUTTER_DISABLE_DIRTY_REGIONS=1一発で 100 % 消滅 - Xorg セッションへの切り替えで即逃げも可能
- 将来的には Mutter 46.3 以降で公式修正が入る見込み
この記事で、日常使いのデスクトップが「スクロールするたびにアイコンがズレる」というストレスから解放されれば幸いです。
次回は、Wayland 環境下で外部モニタのスケールをキーボード一発で切り替える自作シェル拡張の作り方を紹介予定です。
参考資料
- GNOME Mutter Issue #3391 – Scroll artifacts in Overview
- Ubuntu Launchpad Bug #2068117 – Artifacts when scrolling in activities overview
- Clutter Environment Variables – GNOME Wiki
