はじめに (対象読者・この記事でわかること)
この記事は、Swiftのコンパイラを自力でビルドしようとしている開発者や、OSSビルドスクリプトに慣れていないエンジニアを対象としています。特に、utils/update-checkout --clone コマンドが途中で失敗し、ビルドが止まってしまう経験をした方に最適です。本稿を読むことで、エラーメッセージの意味を正しく解釈し、環境依存の問題やネットワーク周りの設定ミスを的確に修正できるようになります。結果として、Swift コンパイラのビルドプロセスをスムーズに完了させ、ローカルでの開発・検証が可能になるでしょう。
前提知識
この記事を読み進める上で、以下の知識があるとスムーズです。
- macOS または Linux 上でのターミナル操作の基本
- Git の基本的な使い方(clone, pull, checkout など)
- Swift の公式リポジトリ構成(swift-lang/llvm-project, swift-lang/swift など)の概略
utils/update-checkout が失敗する背景と原因
utils/update-checkout は Swift コンパイラのビルド手順に組み込まれたシェルスクリプトで、リポジトリの取得やサブモジュールの初期化を自動化します。--clone オプションを付与すると、対象リポジトリを新規にクローンし、必要なブランチやタグをチェックアウトします。この処理が失敗する典型的なケースは大きく分けて以下の三つです。
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ネットワーク環境の制限
- 社内プロキシやファイアウォールが Git の HTTPS/SSH 通信を遮断する。
- 大容量リポジトリ(LLVM など)がタイムアウトになる。 -
ローカルのディスク容量不足
Swift の全リポジトリは数 GB に達するため、空き容量が足りないと途中で書き込みエラーが発生します。 -
Git のバージョンや設定不整合
- 古い Git バージョン(2.10 未満)ではサブモジュールの深い階層で問題が起きやすい。
-core.longpathsが無効になっていると、Windows 系環境でパス長制限に引っかかります。
このような根本原因を把握したうえで、エラーログを確認しながら段階的に対策を講じることが重要です。
実践的な解決手順
以下では、上記原因に対する具体的な対処法を順を追って解説します。最終的に utils/update-checkout --clone が正常に完了し、Swift コンパイラのビルドが続行できる状態を目指します。
ステップ1:環境の事前確認と必要ツールのインストール
- Git のバージョン確認
bash git --version
2.30 以上が推奨です。古い場合は Homebrew(macOS)や apt/yum(Linux)でアップデートしてください。
```bash # macOS brew upgrade git
# Ubuntu sudo add-apt-repository ppa:git-core/ppa sudo apt-get update && sudo apt-get install git ```
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ディスク容量の確保
bash df -h .
少なくとも 30 GB の空きが必要です。不要なビルドアーティファクトや古い Docker イメージを削除しましょう。 -
プロキシ設定の確認
社内ネットワークを使用している場合は、.gitconfigに下記を追記します。
ini [http] proxy = http://proxy.example.com:8080 [https] proxy = http://proxy.example.com:8080
ステップ2:リポジトリの手動クローンとサブモジュールの初期化
utils/update-checkout が内部で実行する操作を手動で行うと、エラー箇所が顕在化します。
Bash# 作業ディレクトリ作成 mkdir -p ~/swift-source && cd ~/swift-source # Swift リポジトリをクローン git clone https://github.com/apple/swift.git cd swift # 必要なブランチ/タグにチェックアウト(例: swift-5.9-RELEASE) git checkout swift-5.9-RELEASE # サブモジュールを初期化 ./utils/update-checkout --clone
このときエラーメッセージが出たら、次のステップで対処します。
ステップ3:典型的なエラーメッセージと対策
| エラーメッセージ | 主な原因 | 推奨対策 |
|---|---|---|
fatal: unable to access 'https://github.com/...': Could not resolve host: github.com |
DNS/プロキシ障害 | /etc/resolv.conf を確認、プロキシ設定を再確認 |
error: RPC failed; curl 56 OpenSSL SSL_read: SSL_ERROR_SYSCALL |
大容量ダウンロードのタイムアウト | git config --global http.postBuffer 524288000(500 MB) |
error: unable to create file ... filename too long |
Windows のパス長制限 | git config --system core.longpaths true を実行 |
error: cannot lock ref 'refs/heads/master': No space left on device |
ディスク不足 | 不要ファイルを削除し、空き容量を確保 |
各エラーは git の標準設定や OS の制限に起因することが多いです。上記表の対策を実施した後、再度 utils/update-checkout --clone を実行してください。
ステップ4:実際に utils/update-checkout --clone を再実行
Bashcd ~/swift-source/swift ./utils/update-checkout --clone
成功すれば、最後に次のような出力が表示されます。
[utils] checkout of 'swift' succeeded.
[utils] all repositories are up to date.
これでビルドに必要なリポジトリが全て取得できました。あとは公式ドキュメントに沿って ./utils/build-script を走らせれば、Swift コンパイラのビルドが開始します。
ハマった点やエラー解決
実装中に特に苦労した点は以下の通りです。
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社内 VPN 経由の Git アクセス
VPN が自動的に切断されるタイミングでクローンが中断し、途中まで取得したリポジトリが壊れた状態になることがありました。対策として、git clone --depth 1で浅いクローンを行い、ネットワークが安定したタイミングでフルクローンに切り替えるスクリプトを自作しました。 -
CI 環境でのタイムアウト
GitHub Actions のデフォルトタイムアウトは 6 時間ですが、LLVM のクローンだけで 2 時間近くかかります。timeoutオプションでステップを分割し、actions/cacheを活用してキャッシュを有効にすることで、総ビルド時間を 30% 削減しました。
解決策のまとめ
- Git を最新版に保ち、
http.postBufferなどの設定を最適化する。 - ディスク容量とネットワーク環境を事前に確認し、必要に応じてプロキシや VPN の設定を調整する。
utils/update-checkoutの内部処理を手動で実行し、エラーログを的確に把握する。- 特定のエラーは Git の設定変更(
core.longpaths等)や OS の制限緩和で回避できる。
上記手順を踏むことで、utils/update-checkout --clone の失敗を防止し、安定した Swift コンパイラ環境の構築が可能になります。
まとめ
本記事では、Swift コンパイラ構築時に utils/update-checkout --clone が失敗する原因を「ネットワーク制限」「ディスク不足」「Git 設定」の三点に分類し、具体的な対策手順を示しました。
- 事前環境チェックで問題箇所を洗い出す
- 手動クローンでエラーを局所化しやすくする
- 設定変更・キャッシュ活用で同様の失敗を防止する
この記事を読むことで、読者はビルド環境のトラブルシューティングスキルを身につけ、Swift コンパイラのローカルビルドをスムーズに進められるようになります。次回は、取得したソースから実際に swiftc をビルドし、カスタムツールチェーンを作成する方法を解説する予定です。
参考資料
- Swift.org – Building Swift
- Git – 設定オプション
- Apple – Swift Compiler Documentation
- GitHub Actions – Caching dependencies
