はじめに (対象読者・この記事でわかること)
この記事は、XcodeでmacOSアプリケーションを開発している、あるいはこれから開発しようとしている開発者の方々を対象としています。特に、セキュリティを強化するためにApp SandboxやHardened RuntimeといったmacOSのセキュリティ機能を利用したいと考えているものの、Xcodeのプロジェクト設定画面でこれらの項目が見当たらないという状況に陥っている方に向けて、その原因と具体的な解決策を解説します。
この記事を読むことで、以下のことがわかるようになります。
- App SandboxとHardened RuntimeがXcodeのプロジェクト設定で表示されない主な原因
- macOSのバージョンやプロジェクトの種類によって設定項目が異なる理由
- App SandboxとHardened Runtimeを有効にするための具体的な手順
- これらのセキュリティ機能を活用する上での注意点
macOSアプリケーションのセキュリティは、ユーザーの信頼を得る上で非常に重要です。この記事を参考に、堅牢なアプリケーション開発の一歩を踏み出しましょう。
前提知識
この記事を読み進める上で、以下の知識があるとスムーズです。
- Xcodeの基本的な操作(プロジェクトの作成、ビルド設定の確認など)
- macOSアプリケーション開発の基本的な概念
- (あれば尚可)App SandboxやHardened Runtimeの概要について、ある程度の知識
XcodeでApp SandboxとHardened Runtimeが表示されない理由
macOSアプリケーション開発において、App SandboxやHardened Runtimeは、アプリケーションのセキュリティを大幅に向上させるための重要な機能です。しかし、Xcodeのプロジェクト設定画面を開いても、これらの項目が見当たらないという経験をした開発者は少なくありません。この現象は、いくつかの要因が複合的に影響しているために発生します。
1. プロジェクトのターゲットプラットフォーム
最も一般的な原因の一つは、プロジェクトのターゲットプラットフォームです。App SandboxやHardened Runtimeは、主にmacOSアプリケーションに適用されるセキュリティ機能です。iOSやwatchOS、tvOSなどの他のAppleプラットフォームでは、これらの機能は異なる形で管理されているか、あるいは存在しません。そのため、もしあなたがiOSアプリを開発していてこれらの項目を探している場合、macOS用のプロジェクト設定とは異なるため表示されないのは当然のことです。
2. XcodeのバージョンとmacOSのバージョン
XcodeとmacOSのバージョンによって、利用できる機能や設定項目の表示方法が異なることがあります。古いバージョンのXcodeやmacOSでは、これらのセキュリティ機能の設定が、現在とは異なる場所にあったり、あるいはまだ成熟していなかったりする可能性があります。特に、macOSのセキュリティ機能は年々進化しており、それに伴ってXcodeでの設定方法も変更されることがあります。
3. プロジェクトの種類と設定
プロジェクトの種類(例: App、Command Line Tool、Frameworkなど)によっても、利用できる設定項目は異なります。特に、macOSアプリケーションとして配布されることを想定した「App」テンプレートのプロジェクトであれば、App SandboxやHardened Runtimeの設定項目が表示される可能性が高くなります。Command Line Toolのような、GUIを持たないアプリケーションや、特定の目的のために作成されるツールでは、これらの設定項目が表示されないことがあります。
4. Info.plistの設定との関連
App SandboxやHardened Runtimeの設定は、Xcodeのプロジェクト設定だけでなく、Info.plistファイル内の特定のキーとの関連性も持っています。これらの設定項目が直接表示されない場合でも、Info.plistに適切なキーを追加することで、後述する「Entitlements」ファイルを通じて有効化できる場合があります。
これらの理由から、Xcodeのプロジェクト設定画面でApp SandboxやHardened Runtimeの項目が見当たらない場合、まずはご自身のプロジェクトのターゲットプラットフォーム、XcodeとmacOSのバージョン、そしてプロジェクトの種類を確認することが重要です。
App SandboxとHardened Runtimeを有効にする具体的な手順
前述した原因を踏まえ、ここではmacOSアプリケーションでApp SandboxとHardened Runtimeを有効にするための具体的な手順を解説します。主に、Info.plistファイルや「Signing & Capabilities」タブでの設定が中心となります。
1. プロジェクトのターゲットプラットフォームを確認する
まず、あなたのプロジェクトがmacOSアプリケーションをターゲットとしていることを確認してください。 Xcodeのプロジェクトナビゲーターでプロジェクトファイルを選択し、ターゲットを選択します。デバッグ情報ペインで「Base SDK」や「Supported Platforms」を確認し、「macOS」が含まれていることを確認してください。
2. Entitlementsファイルを利用する
App SandboxやHardened Runtimeの設定は、Xcodeの「Signing & Capabilities」タブから、より詳細な「Entitlements」ファイル([YourAppName].entitlements)を介して行われることが一般的です。
2.1. Entitlementsファイルの作成または追加
-
Entitlementsファイルがまだ存在しない場合:
- Xcodeのプロジェクトナビゲーターでプロジェクトを選択します。
- 「TARGETS」セクションから、該当するmacOSアプリケーションターゲットを選択します。
- 「Signing & Capabilities」タブを開きます。
- 「+ Capability」ボタンをクリックします。
- リストから「App Sandbox」を選択し、ダブルクリックするか「Add」ボタンをクリックします。
- 「+ Capability」ボタンを再度クリックし、「Hardened Runtime」を選択し、「Add」ボタンをクリックします。
これらの操作により、Xcodeは自動的に
[YourAppName].entitlementsという名前のEntitlementsファイルを作成し、プロジェクトに追加します。 もし、Entitlementsファイルが自動で生成されない場合や、手動で追加したい場合は、以下の手順で行えます。 1. Xcodeのプロジェクトナビゲーターでプロジェクトを選択します。 2. 「File」メニューから「New」->「File...」を選択します。 3. 「macOS」タブの中から「Entitlements」を選択し、「Next」をクリックします。 4. ファイル名を「[YourAppName].entitlements」のように、ターゲット名に合わせたものにし、「Create」をクリックします。 5. 作成したEntitlementsファイルをプロジェクトナビゲーターにドラッグ&ドロップし、プロジェクトのターゲットに紐づけます。 -
Entitlementsファイルが既に存在する場合: Entitlementsファイル(
.entitlements拡張子)がプロジェクト内に既に存在する場合は、それを使用して設定を行います。
2.2. App Sandboxの設定
Entitlementsファイルを開き、以下のキーを追加または確認します。
-
App Sandboxを有効にする:
com.apple.security.app-sandboxというキーをYES(Boolean) の値で追加します。xml <key>com.apple.security.app-sandbox</key> <true/> -
App Sandboxの追加機能: App Sandboxを有効にすると、アプリケーションの実行権限が制限されます。ファイルへのアクセスやネットワーク通信などを許可するには、追加のキーを設定する必要があります。例えば、ドキュメントフォルダへのアクセスを許可するには
com.apple.security.files.user-selected.read-writeのようなキーを追加します。 利用できる機能は多岐にわたるため、Apple Developer Documentationの「App Sandbox Guide」などを参照し、必要な権限を最小限で設定することが推奨されます。
2.3. Hardened Runtimeの設定
Hardened Runtimeは、アプリケーションの実行時にセキュリティチェックを強化する機能です。 Entitlementsファイルを開き、以下のキーを追加または確認します。
-
Hardened Runtimeを有効にする:
com.apple.security.get-task-allowをNO(Boolean) に設定し、runtime-app-permissionsというキーで必要な権限を指定します。 ただし、Hardened Runtimeの有効化は、App Sandboxとは異なり、Xcodeの「Signing & Capabilities」タブで直接、またはInfo.plistのLSApplicationCategoryTypeやLSMinimumSystemVersionなどの設定と連動して有効化される場合もあります。 より直接的な方法として、Sec. entitlementsファイルに以下のキーを追加することで有効化できます。xml <key>com.apple.security.hardened-runtime</key> <true/>注意点: Hardened Runtimeを有効にすると、デバッグ時に
com.apple.security.get-task-allowがYESでないとアタッチできなくなる場合があります。そのため、デバッグビルドではcom.apple.security.get-task-allowをYESに、リリースビルドではNOに設定するなど、ビルド設定で切り替えることが一般的です。
2.4. 「Signing & Capabilities」タブでの確認
Entitlementsファイルでの設定が完了したら、Xcodeの「Signing & Capabilities」タブで、App SandboxやHardened Runtimeの設定が正しく反映されているか、あるいは有効化されているかを確認します。 特に、Provisioning ProfileがEntitlementsと一致しているか、Development Teamが正しく設定されているかを確認してください。
3. Xcodeのビルド設定でEntitlementsファイルを指定する
Entitlementsファイルを設定したら、Xcodeのプロジェクト設定で、このEntitlementsファイルがビルド時に使用されるように指定する必要があります。
- プロジェクトナビゲーターでプロジェクトファイルを選択し、ターゲットを選択します。
- 「Build Settings」タブを開きます。
- 検索バーに「
Code Signing Entitlements」と入力します。 - 「Code Signing Entitlements」の設定項目に、先ほど作成したEntitlementsファイル(例:
[YourAppName].entitlements)のパスが正しく設定されていることを確認します。もし設定されていない場合は、ファイルを選択して指定します。
4. ビルドと実行
上記の設定が完了したら、アプリケーションをビルドして実行します。
App SandboxやHardened Runtimeが正しく有効化されていれば、アプリケーションはこれらのセキュリティ制限の下で動作します。もし予期せぬ動作やクラッシュが発生した場合は、Entitlementsファイルの設定内容や、Info.plist、そして「Signing & Capabilities」タブの設定を再度確認してください。
ハマった点やエラー解決
-
「App Sandbox」の項目が「Signing & Capabilities」タブに表示されない: これは、ターゲットプラットフォームがmacOSではなく、iOSやwatchOSなどになっている場合に頻繁に起こります。プロジェクトのターゲット設定をmacOSアプリケーション用に変更してください。
-
Hardened Runtimeを有効にするとデバッグできなくなる: 前述の通り、Hardened Runtimeの有効化とデバッグのしやすさはトレードオフの関係にあることがあります。 解決策: Xcodeの「Build Settings」で、「Code Signing」セクションにある「"get-task-allow"」の設定を確認します。
- デバッグビルド: 「
get-task-allow」を「YES」に設定します。(Entitlementsファイルでcom.apple.security.get-task-allowをYESに設定するか、ビルド設定で overrides します。) - リリースビルド: 「
get-task-allow」を「NO」に設定します。(Entitlementsファイルでcom.apple.security.get-task-allowをNOに設定するのが一般的です。) これは、Schemeの設定でビルドターゲットを分け、それぞれのビルド設定をカスタマイズすることで実現できます。
- デバッグビルド: 「
-
App Sandbox有効化後にリソースにアクセスできなくなった: App Sandboxは、アプリケーションのアクセス権限を厳格に制限するため、従来は問題なくアクセスできていたファイルやネットワークリソースにアクセスできなくなることがあります。 解決策: Entitlementsファイルに、アプリケーションが必要とする権限を明示的に追加してください。例えば、ファイルピッカー経由で開いたファイルへの読み書き権限、ネットワーク通信許可などです。Apple Developer Documentationの「App Sandbox - Entitlement Keys」を参照し、必要なキーを正確に設定することが重要です。
-
Provisioning Profileとの不一致エラー: Entitlementsの設定と、プロビジョニングプロファイルの内容が一致しない場合、ビルドエラーが発生します。 解決策: Xcodeの「Signing & Capabilities」タブで、「Automatically manage signing」にチェックを入れ、Xcodeにプロビジョニングプロファイルを再生成・更新させるか、手動で適切なプロビジョニングプロファイルを選択してください。
まとめ
本記事では、XcodeでmacOSアプリケーション開発を行う際に「App Sandbox」や「Hardened Runtime」の項目が表示されない問題の原因と、それらを有効化するための具体的な手順について解説しました。
- App SandboxとHardened Runtimeが表示されない主な原因として、ターゲットプラットフォーム、Xcode/macOSのバージョン、プロジェクトの種類などを挙げました。
- これらのセキュリティ機能を有効にするためには、Entitlementsファイルを利用し、
com.apple.security.app-sandboxやcom.apple.security.hardened-runtimeといったキーを適切に設定することが中心となります。 - また、デバッグ時の利便性との兼ね合いや、リソースアクセス権限の問題など、具体的なトラブルシューティングにも触れました。
この記事を通して、macOSアプリケーションのセキュリティを強化するための重要なステップを理解し、ご自身の開発に活かすことができるようになったはずです。 App SandboxやHardened Runtimeは、ユーザーに安全な体験を提供する上で不可欠な機能です。ぜひ積極的に活用し、より信頼性の高いアプリケーション開発を目指してください。 今後は、さらに詳細なApp Sandboxの権限設定や、 notarization(署名)との関連性などについても記事にする予定です。
参考資料
- App Sandbox Guide - Apple Developer Documentation
- Hardened Runtime - Apple Developer Documentation
- Entitlement Keys Reference - Apple Developer Documentation
